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ここは,ぼくムッシュ・ダイトウのプライベートスタジオ。特別に,プロが使う写真テクニックやウラワザを紹介するよ。モノにして名カメラマンになってネ。


「景観」について考える

 このコーナーのバックナンバーもすでに45を数える。よくもまあ,毎回ネタがあるもんだなあ,と自分でも感心するくらいなんだ。写真撮影のテクニックは奥が深く,まだまだテーマとしては無限にあると言えるけど,今回は少し趣向を変えて,最近とくに気になっていることを書きたいと思う。

 

1.見事な景観

 先月,岐阜に撮影取材に行った。主な目的はサクラの撮影だ。国内随一の「花の県」岐阜県には,臥龍がりゅう桜,薄墨うすずみ桜とか苗代なわしろ桜など国の天然記念物にも指定された桜の名木が数多くある。やはり名木と言われるだけあって,それぞれが風格のある見事なものだ。

 取材中,うわさを聞いて訪ねた場所がある。県のほぼ中心に位置する郡上八幡ぐじょうはちまんの町から長良川の最大支流である吉田川に沿って車で20分くらい北上すると,明宝村という村がある。川の両岸に民家が点在する静かな村落だ。川沿いに車を走らせていると突然,川向こうのあざやかなピンク色の斜面が目に飛び込んでくる。

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芝桜の家(岐阜県明宝めいほう村・国田さん宅)

 一面の芝桜だ。時期的には最盛期をすこし過ぎていたけど,びっしりと咲いた芝桜は遠目でみると斜面いっぱいにべっとりとストロベリークリームを塗ったようだ。「芝桜の家」として今では有名になった国田さん宅の芝桜だ。お宅を訪ねて撮影させてもらうことにする。ご主人と思われる人物があらわれて「どうぞどうぞ,ご自由に」とにこにこしながら応対してくれた。撮影している間も,ここの存在を聞きつけた観光客がひっきりなしにやってくる。みんな驚嘆の声をあげながら写真撮影に夢中だ。川沿いの谷間,そこに現出した花の空間,自然環境のなかにみごとにとけ込んだ人工の景観だ。個人が自分のためにコツコツと作り,やがて人の目をも楽しませるようになる。それはけっして環境や景観を壊したりしない。そして今や県の花の名所にまでになった。もし,これが国や行政が計画したゼネコン土木工事だったら,こんなに自然にとけ込んだすばらしい空間が可能だっただろうか。

2.悲しい狭山湖

 ボクの家のそばに多摩湖と狭山湖という双子みたいな湖がある。東京の水がめになっている貯水池だ。湖にはワカサギやヤマメ,まわりの雑木林にはオオタカをはじめタヌキやイタチなども生息している,東京近郊の貴重な自然が沢山あるところだ。それに東京近郊ではめずらしい山桜がすばらしいところで,首都圏の中でも大自然にかこまれた景観は貴重なものだ。

 実はボクが東京からこの近所に引っ越してきたのは,この2つの湖と,まわりの自然環境にかれたからなんだ。とくに狭山湖に沈む夕日はすばらしい。家から自転車で20分くらいで行けるところなのでよく夕日を見に行った。堰堤えんていには,夏になると,今では珍しくなったキリギリスや殿さまバッタなどが沢山いる草むらがあり,昆虫愛好家がおおぜい集まって採集に夢中だった。秋の夕暮れにはスズムシやコオロギの鳴き声が一面に響き渡って,それはすばらしいものだった。その狭山湖畔で3年くらいかけて耐震のダム工事が行われ,すべて立ち入り禁止になり,しばらくあの夕日を見ることは出来なかった。最近になってようやく完成し,立ち入り禁止も解かれたので早速行ってみた。

 行ってみて腰が抜けそうになったね。周辺はきれいに舗装ほそうされた公園に生まれ変わり,あのすばらしかった周辺の環境がすっかり変貌へんぼうしてしまった。バッタが沢山いた草むらはきれいに刈り取られてゴルフ場みたいになってしまった。屋根つきの上等なベンチがおかれた見晴らし台みたいなのが作られていて,そのヨコには高さ3メートルもあろうかと思われる巨大な銘石がそびえ立っている。その銘石には×年×月竣工とありその下には工事を手掛けた大手ゼネコンの名がずらり。まだこんなアホなものをつくるのかと愕然としたね。日本の環境整備なんて,どうせこの程度のものなのだ。名前を彫りたかったらダムの欄干のすみっこにでもプレートにしてはめ込むなどいくらでも方法はあるはずだ。これ見よがしの巨大な銘石なんて時代遅れで後世の笑いモノだよ。せっかくだから「ダム工事にあたり,周辺のかけがえのない自然環境を壊したのは私達です」と彫り込んだらよかったのに。

 新しく舗装された歩道は車椅子いすでも通れるように階段ではなくスロープになっているけど,ここには管理された駐車場が無いのだ。電車も通ってなければバスもなかなか来ないような場所に,まわりを駐車禁止にしておいてバリアフリーもないもんだと思うんだけどね。落成式のテープカットに来た300万票の石原慎太郎都知事もそういうことにはまったく関心がないようだし。

3.なさけない「お江戸日本橋」

 4ヶ月くらい前に日本橋周辺の撮影仕事があって何度か日本橋に出かける機会があった。現在の東京の日本橋ってみんな知ってると思うんだけど,あれはひどいもんだね。橋の上を高速道路が何本も交叉して,まともに日が当たらないほどだ。その下に真っ黒な水の川がよどんでいて,うす暗いすごみのある風景だ。高度成長期の残骸が覆いかぶさっているような感じなんだよね。東京の名所なんだけど,あそこで記念写真を撮っている人の姿をほとんど見かけない。あの景観では写真を撮ろうという気がおきないのも当然だ。

 現存の日本橋は1911年に架け変えられた。そろそろ100年になろうかというこの橋は,当時流行したルネッサンス風の石橋でコンストラクションとしてもとりわけ力作なんだね。なんといっても日本橋は江戸のシンボルだし,これからもずーっと首都東京のシンボルであるべき橋だと思う。その日本橋の上に高速道路をかぶせて,「これで便利になった」なんて考えた当時のお役人たちのお寒い文化度に,ハラが立つんだよね。もしもだよ,セーヌ川にかかるポンヌフの橋の上に高速道路を造ったらパリの人たちはおそらくだまっちゃいないと思うし,まず完成前に反対運動で工事は中止だね。ヨーロッパなど景観文化に対して多少なりとも考える事の出来る国ではまず起こりえないことだね。多少お金はかかっても迂回するとかいくらでも方法はあったと思うし,何が何でもあそこを通らなければならない理由があったんだろうか。出来上がってしまったものにはあまり文句をいう人が少ないから「行政のだまし討ち」にあう。それが残念ながらこの国の特徴でもあるけどね。